大阪湾海岸生物研究会のブログ

大阪湾海岸生物研究会の活動(定点調査や勉強会)の案内や記録のほか、大阪湾を中心とする海の生き物について書きます。

長崎海岸のフジツボ

フルイヒラフジツボ  Tetraclitella (Eotetraclitella) pilsbryi

 有山さんが長崎海岸を訪れた翌々日(15日)、私もそこへ行ってみました。そのときちょっと珍しいフジツボを見つけましたので報告します。下の写真1がそうなのですが、フルイヒラフジツボと言います。長崎海岸では一度だけ2001年にみつかっています。長崎海岸のほかでは明神崎で1994年と2000年の二度みつかっています。

 今回の標本は幅が4mm程度ととても小さく、まだ殻の結合も弱かったせいか、サンプリングのとき殻が壊れて一番前にある嘴板が失われてしまいました。それでも残りの周殻板の様子から周殻板は4枚であると想像できます。4枚の周殻板があって殻底に多くの壁管がある(写真2)ことで、このフジツボはクロフジツボの仲間であることがわかります。クロフジツボの仲間にはクロフジツボの他に、この標本のように平たい形状をしたグループがあって、大阪湾でよく見かけるのはヨツカドヒラフジツボとムツアナヒラフジツボです。タロクヒラフジツボも海岸生物研究会の記録にはありますが、最近それはムツアナヒラフジツボのシノニムとされましたので(Kim et al. 2019参照)2種になります。

 本種とそれら2種との違いは、本種には幅部に褐色の縞模様があること、各周殻板に複数の隆起線があって、その上に短い毛様の組織がないこと、楯板に小さな穴の列があることなどです。この種はこれまで日本海では舞鶴、太平洋岸では足摺岬以南から記録され、特に南日本では潮間帯下部や潮下帯に生息するとされています(Utinomi 1970)。暖かい海に住む種類のようですね。

Kim, H. K. et al. (2019) The formation of lunule-like hollows in shells of the
 acorn barnacle Tetraclitella chinensis (Nilsson-Cantell, 1921), with a reappraisal of the  taxonomic status of T. multicostata (Nilsson-Cantell, 1930)  (Cirripedia: Tetraclididae).       Journal of Crustacean Biology, 39(2), 136–149.

Utinomi, F (1970) Studies on the cirripedian fauna of Japan, IX. Distributional survey of  thoracic cirripeds in the southeastern part of the Japan Sea. Publ. Seto. Mar. Biol. Lab.,  XVII (5), 339-372.                          (大谷)

 

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写真1 全体象

 

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写真2 殻底から見た側板の壁管(凹みのように見える)

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写真3 楯板にある穴列

 

長崎個別調査

昨日、長崎海岸に行ってきました。今回は一人ぼっちです。

潮の引きはもう一つだったのですが、そこそこ種数は出現しました。

そこで見つかった海藻と二枚貝を1種ずつ紹介します。

これはハバモドキPunctaria latifoliaという褐藻です。タイドプールの中に生えていました。私の記憶では、今まで出てきたことはないと思います。一見、冬~早春に大阪湾に出現するセイヨウハバノリPetalonia fasciaや大阪湾には出てこないハバノリPetalonia binghamiaeに似ていますが、体内構造が異なります(下図)。なお、同属のユルヂハバモドキPunctaria projectaは小型で薄く、他の海藻上に生育します。

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バモドキ

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バモドキ切片

二枚貝の方はクチベニデガイAnisocorbula venustaです。今回初めてというわけではなく、たまに出てきます。7mmほどの小さい貝で、砂利中から出現しました。

コロナが早く終わって、またみんなで観察できればいいですね。(有山)

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クチベニデガイ

 

田倉崎個別調査

okkの皆様 非常事態宣言で大変なことになっていますね。

さて、当研究会の田倉崎定点調査は昨日(4/29)の予定だったのですが、コロナの関係で中止になったので、本日、個別調査に行ってきました。私一人かなと思ってたのですが、他に3名の方が来られていました。

潮位表は-3cm(和歌山市)とよく引くはずだったのですが、強風のためかあまり引かず、最干時にもウミトラノオの一部が浸かっているような状況だったので、確認種数も少なめでした。

現地の写真を下に示します。波打際が茶色になっているのは、大部分がヒジキです。昨年よりかなり増えたようです。ニュ-スによると、串本では大不作だそうですが、北上しているのでしょうか。

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現地の状況

採集された海藻を二つ紹介します。これは、時々見つかるフサノリです。今回も打ち上げられていました。きれいな海藻です。

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フサノリ

次はカギイバラノリです。アツバコモングサの葉上に生育していました。

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カギイバラノリ

波が強かったため、他にもいろいろな海藻が打ち上っており、ウスバミルの破片も含まれていました。破片と言っても20cm位。ウスバミルについては、下記を参照してください。(有山)

https://osakawan.hatenablog.com/entry/20170801

 

大阪湾海岸生物研究会 2021年研究発表会・総会プログラム

今年の研究発表会・総会はZoomで行います。会員の方にはZoomのアドレスをお知らせしました。非会員で研究発表を聴講ご希望の方は、大阪市立自然史博物館の石田(iso@mus-nh.city.osaka.jp)までお問い合わせください。

 

日時:2月21日(日) 13時30分〜17時30分
会場:Zoom

 

【研究発表会】13:30 - 16:30(途中、適宜休憩をはさみます)

 

琉球列島産カマカヨコエビKamaka について(甲殻亜門:端脚目:カマカヨコエビ科)」
有山啓之

 

「大阪湾と紀伊水道から採集されたトゲシャコについて」
有山啓之〇・Charles FRANSEN(Naturalis Biodiversity Center)・中島広喜(琉球大学

 

ムラサキイガイは減っているか?大阪湾の事例に見る変化」
大谷道夫

 

「ツヅレウミウシの正体を探る」
柏尾 翔

 

「大阪湾の海岸の打ち上げ死貝殻から見えてきたこと」
鍋島靖信

 

「2018~2020年の利尻島沿岸におけるニシン(Clupea pallsii)の群来の発生状況」
冨岡森理〇・山谷文人那須俊宏


「大阪湾の最奥に位置する西宮浜の生物相」
山西良平

 

【総会議事】16:50 - 17:30

 

大阪湾海岸生物研究会公開講演会「日本のウミウシよもやま話 〜70年にわたる地域調査から話題の最新研究まで」(2月28日開催)

殻をもたない海の貝の仲間のウミウシは、そのカラフルさ、かわいさから人気の生き物です。日本はウミウシの多様性においても、また情報量の多さでも世界で有数の地域です。今回の講演会では先人の足跡から現在の到達点まで、観察や研究のよもやま話を聞いてみましょう。


 日時:2021年2月28日(日)午後1時〜4時
 実施形式:Zoomによるオンライン形式
 演題
  13:00-13:20 ウミウシってどんな生きもの?(柏尾 翔・きしわだ自然資料館)
  13:20-13:50 馬場菊太郎先生とウミウシ(泉 治夫・高岡生物研究会)
  13:50-14:20 世界のウミウシについて(木元伸彦・「世界のウミウシ」サイト開発・運営)
  14:20-14:30 休憩
  14:30-15:00 ウミウシの飼育と展示(西田和記・いおワールドかごしま水族館
  15:00-15:30 ウミウシ葉緑体現象が拓く進化の新地平(前田太郎・龍谷大学
  15:30-16:00 光合成ウミウシ”嚢舌類”の驚くべき能力~新しく発見された大規模な体の自切と再生~(三藤清香・奈良女子大学
 参加費:無料
 申込み:大阪湾海岸生物研究会の会員は申込み不要です。非会員の方は自然史博物館のイベントページから申込みをしてください。申し込まれた方にはZoomの接続アドレスをお知らせします。申込み締切は2月26日(金)です。
 共催大阪市立自然史博物館
 問合せ大阪市立自然史博物館 担当:石田(06-6697-6221)

ココポ-マアカフジツボ

またビーチコーミングのお話です。

 一昨日(10月15日)、ときめきビーチ(岬町淡輪)を歩いたところ、カルエボシ Lepas anserifera と赤いフジツボが付着している洗剤のプラスチック容器が打ち上っていました。フジツボは定点調査でも出てくるアカフジツボ Megabalanus rosa とは違うように思いましたので、大谷さんに伺ったところ、やはりココポ-マアカフジツボ M. cocopoma とのことでした。付着していたのは3個体で、直径は11.5、8、7.5mmでした。本種は近年入ってきた外来種で、急速に分布を広げ、2014年の段階で岩手県~鹿児島県に出現しているそうです(山口、2014)。灯浮標に多いそうですが、こんな容器に付着することもあるのですね。

 なお、本種と近縁種アカフジツボ、オオアカフジツボ M. volcano とは、周殻shell、盾板scutum、背板tergumの形態で識別できますが(Yamaguchi et al., 2009)、単に殻の色彩でも可能かもしれません(本種は暗い紅色)。

 終わりに、本種を同定していただいた大谷さんに感謝します。(有山)

文献 

山口寿之(2014)外来種ココポーマアカフジツボの国内分布.Sessile Organisms, 31, 15-23.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/sosj/31/2/31_15/_pdf/-char/en

Yamaguchi, T. et al. (2009) The introduction to Japan of the Titan barnacle, Megabalanus coccopoma (Darwin, 1854) (Cirripedia: Balanomorpha) and the role of shipping in its translocation. Biofouling, 25, 325–333.

https://www.researchgate.net/profile/Diana_Jones5/publication/24012834_The_introduction_to_Japan_of_the_Titan_barnacle_Megabalanus_coccopoma_Darwin_1854_Cirripedia_Balanomorpha_and_the_role_of_shipping_in_its_translocation/links/0deec535dbfc5d32d8000000.pdf

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付着状況

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直径11.5mmの個体

[追記(10/17 18時)]
 本日も同じ場所を散歩したところ、今度は漁業用ブイに付着した大型個体(直径32mm)を見つけました。打ち上げなのでどこから流れてきたかわかりませんが、増えている可能性があると思います。(有山)

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直径32mmの個体(10/17採集)

 

矢倉海岸のムラサキウミトビムシ

昨日の調査で報告したムラサキウミトビムシのついて紹介します。

まず現地での写真:

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ムラサキウミトビムシ。2020年10月4日。矢倉海岸。

ヨシ群落の近くの転石の裏に密集していました。白いものは彼らの居場所に限って見られ、脱皮殻のようにも見えます。

持ち帰って実体顕微鏡下で撮影しました:

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トビムシ類は翅の無い昆虫類とされていますが、昆虫ではないという見解もあるようです。体の後方に跳躍器官があって、蚤のようにジャンプして移動することができます(トビムシの由来)。土壌動物としてメジャーなグループですが、本種はもっぱら海岸に生息します。口は注射器のようになっていて、打ち上げられたクラゲや死んだ貝の軟体部などの体液を吸います。

甲子園浜や香櫨園浜など、湾奥の海岸でよく見つかるので、矢倉海岸にも常在していると考えられます。原色検索日本海岸動物図鑑Ⅱ(西村三郎編著、1995)で同定しました。(山西)