貝類の図鑑はこれまでにいろいろ出版されてきましたが、全体として専門家向けの図鑑が多かったように思います。本書は、日本の本州中部以南温帯域の潮間帯からダイビングで潜水可能な水深帯で比較的見つけやすい貝類を中心に選定し、その生態写真と殻を図示したものです。標本はその種の特徴を示す典型的なものを選び、付着物等を取り除くなどの処理が丁寧に施されており、複数方向から撮影した写真が掲載されています。生態写真だけの図鑑もありますが、同定には適していません。ほぼすべての種について生態写真と殻標本を併せた図鑑はこれまでにはなく、画期的で斬新な内容といえます。水中観察や写真撮影をするダイバーにも必携で、重宝される一冊でしょう。
貝類は動きの鈍い動物ですが、生態の撮影はうまく方向やタイミングが合わせる必要があり、案外難しいものです。しかも水中で撮影となると、限られた時間内で粘り強く待ちながら見つけ出し、納得の一枚を撮ることは骨が折れる作業です。このような図鑑を刊行されたことに敬意を表します。学術的にも活用でき、一般にも親しみやすく、フィールドに持っていくにも便利な一冊です。多くの方々が本書を手に取り、貝に関心を持っていただければ幸いです。(大古場)
日本の貝: 温帯域・浅海で見られる種の生態写真+貝殻標本 (ネイチャーウォッチングガイドブック)
- 作者: 〓重博,武井哲史
- 出版社/メーカー: 誠文堂新光社
- 発売日: 2019/01/11
- メディア: 単行本
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