小島で見つかったミツクチキリオレ科の貝を同定してみました。全体像は写真1のような貝です。まず注目したのは殻の先端にある原殻の螺糸の数です。写真2に見るように、各層の螺糸は1本です。これまで大阪湾海岸生物研究会の調査ではミツクチキリオレ科の貝は6種が記録されていますが(大阪湾海岸生物研究会 2007、2018、2023参照)、この中のコンボウキリオレは原殻が卵黄栄養型なので別として、標本の様なプランクトン栄養型の原殻を持つ種で螺糸が1本なのはホソアラレキリオレ、サツマキリオレ、クリイロキリオレの3種になります。標本がこれら3種のどれかに該当するかどうかですが、それを調べるため、さらに歯舌を観察してみました。写真4をごらんください。幅が広い中央歯とその横に同じく幅広の側歯が左右に1個、さらにその外側に複数個の縁歯があるのがわかります。ただ、顕微鏡の倍率に限界があって、あまりはっきりとした写真を用意できませんでしたので模式図を用意しました。写真4横の5をご覧ください。その構造がよくわかると思います。
1.全体像(scale:1mm)(左) 2.原殻(scale:0.5mm) (中) 3.殻蓋(右)
4.歯舌(scale: 25μm) 5.歯舌模式図(Marshall, 1983より)
Marshall(1983)によると、このような形の歯舌はBouchetriphora属の特徴になります。また殻蓋の螺旋が5巻以上あるのもこの属の特徴ですが、標本の殻蓋の螺旋も少なくとも5巻が見て取れます(写真3)。したがってこれらの特徴から、標本はBouchetriphora属の種であると考えてよさそうです。サツマキリオレとクリイロキリオレは歯舌の構造が全く異なり、別属に分類されているので候補から外れます。Bouchetriphora属は世界から6種が知られますが(MolluscaBase)、そのうち4種が日本産種です(奥谷編著 2017)。日本産の種の中では、標本のように一様に褐色で顆粒が淡い色になる種は、大阪湾でも過去に記録があるホソアラレキリオレしかありません。したがって、この標本はOKKメーリングリストでは属までの同定にしましたが、改めてホソアラレキリオレに訂正します。(大谷)
文献
Marshall(1983)A revision of the recent Triphoridae of southern Australia (Mollusca: Gastropoda). Records of Australian Museum, supple. 2: 1-119.
MolluscaBase https://www.molluscabase.org/aphia.php?p=taxlist
奥谷喬司編著(2017)日本近海産貝類図鑑 第二版. 東海大学出版会,東京:1382pp.
大阪湾海岸生物研究会(2007)大阪湾南東部の岩礁海岸生物相-2001~2005年の調査結果.自然誌研究,3 (6): 93-106.
大阪湾海岸生物研究会(2018)大阪湾南東部の岩礁海岸生物相-2010~2015年の調査結果.自然誌研究,4 (2): 17-38.
大阪湾海岸生物研究会(2023)大阪湾南東部の岩礁海岸生物相-2016~2020年の調査結果.自然誌研究,4 (6): 157-179.