大阪湾海岸生物研究会のブログ

大阪湾海岸生物研究会の活動(定点調査や勉強会)の案内や記録のほか、大阪湾を中心とする海の生き物について書きます。

城ヶ崎のイボイワオウギガニ

6月18日の定点調査の際、ジュニア自然史クラブの参加者(だったと思います)が見つけてくれたイボイワオウギガニ Eriphia ferox Koh & Ng, 2008 です。当日のまとめでは「大阪湾では珍しいが過去に記録があったと思う」と申し上げましたが、定点調査では過去に記録されたことはありませんでした。おそらく大阪湾初記録ではないかと思います。

本種は、例えば和歌山県の白浜の磯では普通に見られます。石垣の護岸のすき間などに潜んでいて、夜になると磯に出てきます。近づくと逃げ腰ではあるのですが、鉗脚を大きく広げて威嚇してきます。かなり旺盛な肉食者です。私が白浜で見つけた時は引き剥がしたマツバガイを裏返しに持って歩いていて、まるで学会の懇親会でごちそうのお皿を抱えてウロウロしている人、のような感じでした。

ちなみに、イボイワオウギガニには南アフリカ喜望峰をタイプ産地とする Eriphia smithii MacLeay, 1838 の学名がかつては充てられていましたが、西太平洋に分布するイボイワオウギガニは南アフリカE. smithiiとは形態的な違いが認められることから、新たにKoh & Ng (2008)によりE. feroxとして記載されました。

(参考)Koh, S. K.; Ng, P. K. L. (2008). A revision of the shore crabs of the genus Eriphia (Crustacea: Brachyura: Eriphiidae). Raffles Bulletin of Zoology. 56(2): 327-355.(PDFリンク

 

【2023/6/22追記】2021年3月14日に同じく城ヶ崎で行った博物館友の会の海藻の観察会でイボイワオウギガニを記録している、という指摘がありました。少なくとも2年間は定着している、ということになります。(石田)

(石田)

 

城ヶ崎のコナウミウチワ

今回、珍しい海藻が記録されました。コナウミウチワ Padina crassa です。普通のウミウチワ P. arborescens との違いは、藻体が薄く、石灰分を沈着させるため白く見えることです。石灰分のあるウミウチワ類は、他にオキナウチワ P. japonica やウスユキウチワ P. minor がありますが、本種は体の下部が6層以上で上部が2-4層であるのに対し、後二者は全体が2層からなることで区別できます。

(有山)

コナウミウチワ

上部断面

下部断面




 

城ヶ崎定点調査(6月18日)のご案内

 次回の城ヶ崎の定点調査のご案内です。奮ってご参加ください。

 実施日:6月18日(日)
 調査地:和歌山市加太 城ヶ崎
 集合:午前10時30分、南海加太線加太駅。難波08:45発特急サザンに乗り和歌山市駅加太線に乗り換えると加太駅10:19着。城ヶ崎まで徒歩約2km。
 干潮:13:00, 9cm
 解散:15時半頃、現地で
 持ち物:観察・採集用具(ルーペ、野帳など)、弁当、飲み物、軍手、タオル。
 申込み:事前の申込みは不要です。
 参加対象:本会会員と同伴者
 その他:雨天中止。当日の朝、はっきりしないときは、午前6時以降に本会のブログで確認してください:https://osakawan.hatenablog.com
     体調不良の方は参加をご遠慮ください。

 定点調査についてはこちらをご覧ください。
 https://www.omnh.jp/iso/okk/page03.html

長崎海岸で見つかった大阪湾初記録の外来性ホヤ オーストラリアハルトボヤについて

オーストラリアハルトボヤ Microcosmus squamigera

 有山さんに提供していただいたホヤです。大きさは体長3.1cmでした(写真:外観)。現地では種類がよくわからなかったので持ち帰って解剖したところ、大きな生殖腺が体の両側にあって、特に左側(写真:解剖写真の右側の部分)の生殖腺が第一腸環から始まって腸をまたいで第二腸環へ抜けるというMicrocosmus属のホヤの特徴を持つことがわかりました(写真:解剖写真)。

 これ以外の特徴として、鰓嚢の襞が体の左右にそれぞれ9つあること、繊毛孔がぐるりと二重に巻くこと(写真:繊毛孔)、内柱にボタン状の小さな突起があること、水管の内壁にある微棘の高さが18~25 µm、幅が13~18 µmあって、平面的に見た形が屋根瓦のようになっていること(写真:水管の微棘)、生殖腺がいくつかの塊に分れていることなどがありました。

左:外観   右:解剖写真
左:繊毛孔  右:水管の微棘

  日本産のMicrocosmus属には、ハルトボヤ(M. hartmeyeri)、ヒメハルトボヤ(M. multitentaculata)、サザレボヤ(M. curvus)の3種が知られていますが、本種がこれらと異なる点は、鰓嚢の襞の数がこれらの種よりも多いこと、生殖腺が複数の塊に分かれること、とりわけ水管内壁の微棘が屋根瓦のような形をして、高さが他の種が100 µmを超えるのに比べて25 µm以下と小さいことなどです。

 このホヤは原産地がオーストラリアとされていますが、原産地以外では1981年にイタリアとチュニジアで見つかったのを皮切りに、地中海一帯、北西大西洋沿岸各地、北米カリフォルニア、メキシコ、西アフリカ、南アフリカなど温帯域の広い範囲で発見され、これらの地域に侵入した外来種と考えられています。アジアでは昨年韓国の済州島で見つかりました。日本ではどうかというと、2007年に神奈川県の真鶴で見つかって以来、房総半島、三浦半島駿河湾、串本、紀伊半島、松山沖(航路ブイ上)、沖縄などから見つかっていますが、大阪湾からの記録はありませんでした。今回が大阪湾初記録となります。

また、この種は集団で付着することがあるとされていて、そのような場合、カキ養殖場などで被害を起こす例も海外では知られていますので、今後の動向が気になるところです。

(大谷)

長崎海岸でヒラフネガイを確認しました。

5月20日の長崎海岸での定点調査の際に、ヒラフネガイを確認しました。

私は以前、上天草にいたのですが、本種は有明海の干潟でカキの死殻によく付着していました。そのため、あまり珍しいものと思わず採集しなかったのですが、長崎海岸ではあまり見られないとのことでしたので報告します。

ヒラフネガイ。二枚貝の死殻に付着していた。よく見ると巻いた原殻が確認できる。

ヒラフネガイは、カリバガサ科の巻貝で、写真のように扁平な殻をもっています。殻は半透明で中身を透かし見ることができます。殻の内側には、本科の特徴である殻板があります。

本種は、第四紀の地層から化石が見つかっています。また、本種とヤドカリとの共生関係についての研究が記事があったので、それらのリンクも付記しておきます。

〇ヒラフネガイの化石と属名 

https://www.city.mizunami.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/002/291/2014092922827_14.pdf

〇ヤドカリの貝殻を介した共生関係(2)〜ヤドカリの“宿”を借りるヒラフネガイ〜

https://www.rimi.or.jp/wp-content/uploads/2021/02/Tsushin105_5-7.pdf

(前川)

長崎海岸で採集されたイロロ

土日、好天でよかったですね。

さて、今回、長崎海岸で褐藻の1種、イロロ Ishige foliacea が採集されました。小型でややひねくれていますが、潮間帯上部の岩上に生育しており、本種に間違いないと思います。過去の記録を見ると、長崎では初記録で、隣の豊国崎でもイロロの記録はありません。本種は以前は主に城ヶ崎のみに分布していたのですが、徐々に分布が広がって、今回の出現になったものと思います。

(有山)

長崎のイロロ

イロロの採集記録

田倉崎

城ヶ崎

戎崎

明神崎

豊国崎

長崎

1980~1985

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1986~1990

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1991~1995

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1996~2000

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2001~2005

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2006~2010

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2011~2015

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2016~2020

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2021~2023

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〇:出現、×:出現せず、-:調査なし