当研究会会員のTさんより、Tさんのお母様が昭和31〜32年頃に夏休みの宿題のために浜寺(堺市の諏訪ノ森付近)で拾い集めた貝の標本がある、ということを伺いました。浜寺の埋め立てが始まるのは昭和30年代後半なので、その直前の大阪湾の環境を知るうえで大変興味深い資料と思われます。ぜひ見たいです、とお伝えしたところ、さっそく博物館にお持ち頂きました。
打ち上げ貝がおよそ60点、ざっと見て30種ほどですが、小学生でも浜寺でこれだけ拾えたのかと思うとうらやましい限りです。特に目を引くのはハマグリ、イタボガキ、マツヤマワスレ、フロガイダマシなどです。ハマグリとイタボガキはかつての大阪湾では多産していましたが、現在はほとんど見られなくなり、大阪府レッドリストでは両種とも府域絶滅となっています。現存する大阪府産のイタボガキの標本というのは、私の知る限り国立科学博物館が所蔵する明治時代のものだけです。マツヤマワスレやフロガイダマシは湾南部では記録がありますが、湾奥での記録はほとんどありません。いずれも内湾浅海域における良好な自然環境を示すものです。
また、面白い標本としてオトコタテボシガイがあります。これは淡水の二枚貝で、琵琶湖淀川水系の固有種です。かつては淀川本流でも見られましたが、現在の生息は琵琶湖周辺に限られています。当時まだ生息していた淀川から浜寺まで殻が流されてきたのかもしれませんが、あまり傷ついている様子もないので、誰かが浜寺や近くの石津川などに捨てた可能性も否定できません。
小学生の夏休みの宿題であっても、きちんと標本として残されれば、その時の環境を知る手がかりになるのだということを改めて実感しました。この標本の種のリストや詳しい解説についてはいずれ自然史博物館友の会会誌Nature Studyなどに執筆し、機会があれば博物館で展示もしたいと考えています。
(石田)