大阪湾海岸生物研究会のブログ

大阪湾海岸生物研究会の活動(定点調査や勉強会)の案内や記録のほか、大阪湾を中心とする海の生き物について書きます。

コケムシの話題二つ

4月1日に城ケ崎へ行った折、何種類かのコケムシを採集しましたが、そのうちの二種についての話題を提供します。
その二種とは、以下の写真の黄白色のコケムシ(黄色矢印)と赤褐色のコケムシ(赤矢印)です。黄白色の方は、エリアナコケムシ、赤褐色の方はチゴケムシです。

1.エリアナコケムシPacificincola perforata
黄白色の色彩を持ったこのコケムシは、虫室口直下の突出部に周縁が滑らかな小孔を持つ、虫室口は半円形であるなどの特徴から1999年に創設された科、Pacificincolidaeの一員と考えられます。この科には本属(Pacificincola)を含めて三つの属がありますが、本標本は虫室口下縁が直線的であることや鳥頭体を持たないことなどで、その中のひとつであるPacificincolaであることがわかります。
Pacificincola属にはこれまでに世界から2種が知られていますが、フロリダに産するもうひとつの種P. aviculiferaとは個虫の覆壁の盛り上がり方や、虫室口の形の違いなどで区別されます。
本種が最初に記載されたのは宮城県の女川湾で1937年のことです(Okada & Mawatari, 1937)。しかしその後発見は途絶え、1990年の香港での発見まで待つことになります。香港での発見のあとは南シナ海東シナ海沿岸の他の場所でも相次いで発見され、とりわけ南シナ海沿岸では最も普通の汚損生物のひとつとして知られています。
また、本種は最近(2006年のことですが)フランスとオランダでマガキやヨーロッパイガイの殻上から発見され、ヨーロッパへ侵入した外来種としても注目されています。

2.チゴケムシ(Watersipora subatra
チゴケムシはこれまでW. subovoideaという学名で知られてきましたが、最近の研究(例えばVieira et al. 2014)で世界のW. subovoideaには複数種が含まれることがわかりました。日本産の場合もW. subatraW. aterrimaW. mawatariiW. typicaの4種が含まれていることが明らかになりました。世界で知られる種も含めW. subovoideaに含まれる種は、虫室口の蓋をしている口蓋の模様、その側方下部に一対ある複数の孔が開いたintrazooidal septulaという構造の有無、覆壁に開いた偽孔という組織の大きさ、虫室口下縁の湾入の形や深さ、幅などの違いを基に見極めることが出来ます。城ケ崎のチゴケムシはこれらの特徴を比べた結果、口蓋には中央に縦に走る黒い帯があること、intrazooidal septulaがあること、偽孔の大きさが20µm前後であること、虫室口下縁の湾入はU字型でサイズは160×70µm(幅×深さ)前後であることなどの特徴からW. subatraと考えて良さそうです。
 大阪湾に他の種の存在がないかはこれから確かめる必要がありそうです。写真は軟体部を除外したため色が抜けています。

文献
Okada & Mawatari (1937) On the collection of Bryozoa along the coast of Onagawa Bay and its vicinity, the northern part of Honshu, Japan. Sci. Rep. Tohoku Imp. Univ. Biol., 11: 433-445.

Vieira, Jones & Taylor (2014) The identity of the invasive fouling bryozoan Watersipora subtroquata (d'Orbigny) and some other congeneric species. Zootaxa, 3857: 151-182.(大谷)