大阪湾海岸生物研究会のブログ

大阪湾海岸生物研究会の活動(定点調査や勉強会)の案内や記録のほか、大阪湾を中心とする海の生き物について書きます。

図鑑「くらべてわかる貝殻」の紹介

大阪海岸生物研究会の皆様 こんにちは。竹之内です。今度友人の黒住さんが図鑑を書いたので紹介させていただきます。なおこの本は自然史博でも購入できます。

 

 読書百遍義自ずから通ずという言葉がある。難しい本でも何度も繰り返し読んでいるうちに自然と意味がわかってくるという意味らしい。我々自然愛好家にとってはこの書を図鑑と読み替えるとしっくりくる。図鑑を読み込み、標本と照らし合わせて、ようやく同定にたどりついた時の苦労や図鑑では何度も確認していた種に現場で初めて出会えた感動は小説を読んで得られるものとは別の味わいがある。繰り返し読み返した図鑑では次第に図と説明文が頭の中に叩き込まれてくるものだ。
 今でこそ数多の図鑑があるが、私が若いころは図鑑は少なく、貴重なものであった。貝を拾ってきて図鑑(たとえば標準原色図鑑 貝:保育社)と照らし合わせても、似たような貝はたくさんあり、同定に迷ったものであった。ずっと後に博物館で貝の同定のお手伝いをするようになっても、子供の「貝拾いという」夏休みの宿題を手伝う親の世代から「図鑑で見てもどれに当てはまるのかわからないんですよ。」という言葉はだいぶいただいた。
 さて、時代は変わり、ちまたに数多くの図鑑があふれるようになった。そこに新たな貝の図鑑の登場である。著者は千葉県立中央博物館学芸員の黒住耐二氏である。タイトルは表題の通り「くらべてわかる貝殻」山と渓谷社からの出版物である。山と渓谷社へのリンク(https://www.yamakei.co.jp/products/2817063560.html)「くらべてわかる」シリーズの一つらしい。この本は拾ってきた貝の名前が分かるということに特化した図鑑ということが出来る。小学生の頃からの貝好きで、成長して博物館の学芸員になった彼らしい著作と言える。最近の知見を取り入れて、種以下のレベルの変異型に詳しい。それぞれの個体がはっきりわかるように、写真がクリアーできれいであると同時に砂浜で拾ってきた貝の様子が分かるように、少し摩耗した個体も積極的に図示している。近年山崎氏らは遺伝子レベルで磯の貝を丁寧に分析している。オキナワイシダタミとイシダタミの関係はずっと曖昧なままだったが、種レベルで区別できることが明らかになった。しかも本土のオキナワイシダタミは内湾の磯に住むので隔離されやすく、南西諸島のものとはほんの少し形状が違う。このことも図鑑では図示している。また、クサイロクマノコガイをクマノコガイから種レベルで区別するようになったのも最近のことである。磯のアクキガイ科の貝ではレイシやイボニシのC型P型、ナガイボニシ型やオハグロレイシの型までとても丁寧に変異を抑えている。またミドリイガイやコウロエンカワヒバリガイなどニューカマーについての言及もある。この図鑑のいいところを4つ箇条書きにしてまとめておこう。

1 新しい分子遺伝学的知見に基づいて最近の業績を反映させている。
2 種以下のレベルの変異について積極的に紹介している。ここにはやや本人の考えが反映されている部分もある。
3 やや摩耗した標本も同時に示すなど、浜辺で拾った貝の同定ができるよう工夫している。
4 貝の写真に直接同定の要点が書いてあり、すんなり頭に入る。これは最近の図鑑ではどれでも工夫されているところではある。

1700円+税のこの本は600種ほどが掲載されている。貝の世界の全貌を知るにはまだまだ力不足だが、日本の海の貝の全部掲載を目指した「近海産」という図鑑もあることだし、一つのステップとしてこの図鑑で学びを深めてほしいものである。