大阪湾海岸生物研究会のブログ

大阪湾海岸生物研究会の活動(定点調査や勉強会)の案内や記録のほか、大阪湾を中心とする海の生き物について書きます。

田倉崎で採集された甲殻類と海藻

比較的珍しいと思われる2種の甲殻類と2種の海藻を紹介します。
1.    カイヤドリウミセミ Dynoides conchicola (Nishimura, 1976)
 潮間帯中部の小岩の裏側にいました。体長は約3~4 mmで、体色は淡色から褐色や白色の斑紋があるものまで変異があります。メスと推定されるものは紅色の卵巣が透けています。体には明瞭な突起がなく、腹尾節の先端には切れ込みがあります。本種は白浜から記載され(Nishimura, 1976; https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/175936/1/fia0233-5_275.pdf)、大阪湾からも記録があります(Nunomura & Nishimura, 1976; https://www.omnh.jp/publication/bulletin/bulletin/30/30-004.pdf)。その後、シリケンウミセミ Dynoides dentisinus Shen, 1929 のシノニムとなり(Bruce, 1980)、WoRMSもそれに従っていますが、形態や色彩がシリケンウミセミの幼体と全く異なっており、別種で間違いないと思います。なお、本種は笠形の貝の外套膜の下側に生息するとされていますが、今回は確認されませんでした。

カイヤドリウミセミ(左:オス、右:メス)

2.    ヒメアカイソモドキ Sestrostoma depressum (Sakai, 1965)
 本会の定点調査で稀に出現します。甲は淡褐色で丸くやや横長、甲幅は約5 mmのオス個体でした。鉗脚に毛は生えていません。文献に当たっていませんが、ネットの画像と一致するので本種としました(誤同定の危険性もありますが)。本種はアナジャコ類やスナモグリ類の巣穴から採集されるという情報もあります(https://twitter.com/ma_sym_bio/status/872446345369362432)。

ヒメアカイソモドキ

3. エノシマモサズキ Jania yenoshimensis (Yendo) Yendo

 モサズキ属は本会の定点調査でたまに出現するのですが、今回の種はヒメモサズキ Jania adhaerens Lamouroux などとは異なり、かなり大振りです。何かなと思ってネットを調べたらエノシマモサズキ J. yenoshimensis (Yendo) Yendo とよく似ていることがわかりました(https://www.kaiseiken.or.jp/publish/reports/lib/2000_01.pdf ; p. 54)。さらに原記載(下記)を参照したところ、本種にほぼ間違いないとの結論に至りました。

Yendo, K. 1902. Corallinae verae japonicae. Journal of the College of Science, Tokyo Imperial University 16(3): 1-36, pls. I-VII. https://www.biodiversitylibrary.org/bibliography/7002

 

石灰藻2種(左:エノシマモサズキ、右:ヘリトリカニノテ)

4.    ヘリトリカニノテ Corallina crassissima (Yendo) Hind et Saunders
 本会の定点調査では初記録だと思います。近縁のフサカニノテ C. aberrans (Yendo) Hind et Saunders とは、上部の節間部がフサカニノテでは矢筈形であるのに対し、本種では六角形であることが異なっていますが、識別はけっこう難しいです。なお、ヘリトリカニノテの右下部に付着している黒っぽい海藻はコザネモ Symphyocladia marchantioides (Harvey) Falkenberg です。(有山)