大阪湾海岸生物研究会のブログ

大阪湾海岸生物研究会の活動(定点調査や勉強会)の案内や記録のほか、大阪湾を中心とする海の生き物について書きます。

ココポ-マアカフジツボ

またビーチコーミングのお話です。

 一昨日(10月15日)、ときめきビーチ(岬町淡輪)を歩いたところ、カルエボシ Lepas anserifera と赤いフジツボが付着している洗剤のプラスチック容器が打ち上っていました。フジツボは定点調査でも出てくるアカフジツボ Megabalanus rosa とは違うように思いましたので、大谷さんに伺ったところ、やはりココポ-マアカフジツボ M. cocopoma とのことでした。付着していたのは3個体で、直径は11.5、8、7.5mmでした。本種は近年入ってきた外来種で、急速に分布を広げ、2014年の段階で岩手県~鹿児島県に出現しているそうです(山口、2014)。灯浮標に多いそうですが、こんな容器に付着することもあるのですね。

 なお、本種と近縁種アカフジツボ、オオアカフジツボ M. volcano とは、周殻shell、盾板scutum、背板tergumの形態で識別できますが(Yamaguchi et al., 2009)、単に殻の色彩でも可能かもしれません(本種は暗い紅色)。

 終わりに、本種を同定していただいた大谷さんに感謝します。(有山)

文献 

山口寿之(2014)外来種ココポーマアカフジツボの国内分布.Sessile Organisms, 31, 15-23.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/sosj/31/2/31_15/_pdf/-char/en

Yamaguchi, T. et al. (2009) The introduction to Japan of the Titan barnacle, Megabalanus coccopoma (Darwin, 1854) (Cirripedia: Balanomorpha) and the role of shipping in its translocation. Biofouling, 25, 325–333.

https://www.researchgate.net/profile/Diana_Jones5/publication/24012834_The_introduction_to_Japan_of_the_Titan_barnacle_Megabalanus_coccopoma_Darwin_1854_Cirripedia_Balanomorpha_and_the_role_of_shipping_in_its_translocation/links/0deec535dbfc5d32d8000000.pdf

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付着状況

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直径11.5mmの個体

[追記(10/17 18時)]
 本日も同じ場所を散歩したところ、今度は漁業用ブイに付着した大型個体(直径32mm)を見つけました。打ち上げなのでどこから流れてきたかわかりませんが、増えている可能性があると思います。(有山)

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直径32mmの個体(10/17採集)

 

矢倉海岸のムラサキウミトビムシ

昨日の調査で報告したムラサキウミトビムシのついて紹介します。

まず現地での写真:

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ムラサキウミトビムシ。2020年10月4日。矢倉海岸。

ヨシ群落の近くの転石の裏に密集していました。白いものは彼らの居場所に限って見られ、脱皮殻のようにも見えます。

持ち帰って実体顕微鏡下で撮影しました:

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トビムシ類は翅の無い昆虫類とされていますが、昆虫ではないという見解もあるようです。体の後方に跳躍器官があって、蚤のようにジャンプして移動することができます(トビムシの由来)。土壌動物としてメジャーなグループですが、本種はもっぱら海岸に生息します。口は注射器のようになっていて、打ち上げられたクラゲや死んだ貝の軟体部などの体液を吸います。

甲子園浜や香櫨園浜など、湾奥の海岸でよく見つかるので、矢倉海岸にも常在していると考えられます。原色検索日本海岸動物図鑑Ⅱ(西村三郎編著、1995)で同定しました。(山西)

矢倉海岸の小型甲殻類

昨日は思ったよりも潮が引いて、よかったですね。私が採集した小型甲殻類を報告します。ヨコエビ3種、等脚類1種です。

1. ニホンドロソコエビGrandidierella japonica

 泥干潟にきわめて普通のヨコエビです。ドロソコエビ属は他のヨコエビ類と異なり、オスの第1咬脚が特に大きくなるのが特徴です。泥中に巣穴を作って生息しています。昨日は小型個体ばかりでしたが、1㎝位になるのもいます。この場所には他にオオサカドロソコエビG. osakaensisも生息しているはずですが(タイプ産地が淀川河口です)、残念ながら採集できませんでした。もう少し引けば見つかったものと思います。この種については下記をご覧ください。

https://osakawan.hatenablog.com/entry/2019/04/25/140500

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ニホンドロソコエビ♂

2. シミズメリタヨコエビMelita shimizui

 汽水域の転石下にいるヨコエビです。大阪湾の河口には今回のような白っぽい大型のもの(オスの最大体長約7mm)と青緑がかった小型のものがいますが、種内変異なのか別種なのかわかりません。形態的には第2咬脚の掌縁が斜めで目の小さいことが特徴です。

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シミズメリタヨコエビ

3. ヒゲツノメリタヨコエビMelita setiflagella

 この種も汽水域の転石下に生息します。色は褐色でまだら模様があります。前種より少し大型です。形態的特徴としては、オス第2咬脚の掌縁がほぼ縦で、第2触角鞭状部に毛が密生することが挙げられます。

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ヒゲツノメリタヨコエビ

4. イソコツブムシ属の1種Gnorimosphaeroma sp. 

 現地ではハバヒロコツブムシChitonosphaera lataかなと思ったのですが、顕微鏡で見ると、すべて本種の幼体でした。本邦産イソコツブシ属については1998年に12種が報告されていますが(Nunomura, 1998;その後さらに増加)、同定はかなり難しいです。(有山)

[文献]Nunomura, N. (1998)  On the genus Gnorimosphaeroma (Crustacea, Isopoda, Sphaeromatidae) in Japan with descriptions of six new species. Bulletin of the Toyama Science Museum, 21, 23-54. 

https://isopods.nhm.org/pdfs/4854/4854.pdf

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イソコツブムシ属の1種

矢倉のベントス調査会(10月4日)

今年は定点調査の回数が少なく、また合宿も中止になってしまいましたので、研究会としても活動量が落ちています。そこで、秋のイベントとして矢倉干潟(西淀川区)でのベントス調査会を企画しました。実は矢倉干潟では2019年以降、大阪湾生き物一斉調査の調査ができていません。矢倉は西淀自然文化協会の皆さんによって開始年度からずっと調査が続いていたサイトですので、できれば補完しておきたいと考え、研究会でデータを取ることにしました。関心のある方はぜひご参加ください。

 実施日:10月4日(日)
 場所:矢倉干潟(大阪市西淀川区神崎川河口左岸)
 集合:阪神なんば線「福」駅西口に午前11時。矢倉干潟まで徒歩50分程度です。
 干潮:13時55分, 76cm(大阪港)
 解散:午後3時〜4時頃、現地で。
 持ち物:観察・採集用具(ルーペ、野帳など)、弁当、軍手、タオル、マスク。
 申込み:事前の申込みは不要です。
 参加対象:本会会員と同伴者
 その他:・潮位が高めですが、調査地はぎりぎり干出すると思います。お持ちの方は胴長をおすすめします。
     ・小雨決行・荒天中止とします。当日はっきりしないときは、午前9時以降に本会のブログで確認してください。
      https://osakawan.hatenablog.com
     ・当日は大阪市立自然史博物館友の会の秋祭りイベントの下見グループと合流しますのでご了承ください。

 感染症防止に関するお願い:
 ○当日または過去2週間以内に発熱、風邪のような症状、味覚・嗅覚異常のある方は参加をご遠慮ください。
 ○往復の移動時には、各自で必要な感染防止対策を取ってください(マスク着用など)。
 ○現地ではソーシャルディスタンスの確保などに努めてください。お互いに近づく必要のある時はマスクの着用もお願いします。
 ○感染拡大などの状況により、政府や自治体から移動やイベント自粛の要請が出された場合は中止とします。中止の場合はメーリングリストとブログで告知します。

ガザミ類の殻

コロナや猛暑で大変なことになっていますが、お変わりございませんでしょうか。

私は週に数回、泉南さとうみ公園でウォーキングしているのですが、今日、波打ち際でガザミ類稚ガニの脱皮殻を拾いましたので、報告します。計16個で、いずれも淡輪側(ときめきビーチ)でした。種類を調べたところ、ガザミ Portunus trituberculatus が8個(甲幅24~37mm、写真1)、ジャノメガザミ P. sanguinolentus が7個(甲幅26~36mm、写真2)、タイワンガザミ P. pelagicus が1個(甲幅32mm、写真3)でした。なお、種の同定は有山(2001)を参考にしましたが、ジャノメはすべて甲に斑紋があり容易でした。ガザミとタイワンは鉗脚長節前縁の棘が4本か3本かで識別できますが、これ位のサイズの稚ガニでは、鉗の不動指がガザミでは白色であるのに対し、タイワンは赤色であることでも区別できます。

熱中症に気を付ける必要はありますが、こんなビーチコーミングもいかがでしょうか。(有山)

[文献]

有山啓之(2001)大阪湾におけるタイワンガザミの生態について.大阪水試研報,13,19-22.http://www.kannousuiken-osaka.or.jp/_files/00056113/13-3.pdf

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写真1.ガザミ(甲幅37mm)

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写真2.ジャノメガザミ(甲幅36mm)

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写真3.タイワンガザミ(甲幅32mm)

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ガザミ類3種の稚ガニにおける甲および鉗脚長節の形態の比較(上段:ジャノメガザミ、中段:ガザミ、下段:タイワンガザミ)[有山(2001)より]

 

 

豊国崎のウミシダ:マキエダコアシウミシダ

豊国崎の定点調査で見つかったウミシダの不明種について、小郷一三先生に同定して頂きました。マキエダコアシウミシダ Comanthus wahlbergii (Müller, 1843) とのことでした。日本近海での記録は相模湾佐渡島を北限とする南方系の種で、大阪湾では初記録となります。

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マキエダコアシウミシダ(反口側)

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マキエダコアシウミシダ(口盤側)

 

(石田)