大阪湾海岸生物研究会のブログ

大阪湾海岸生物研究会の活動(定点調査や勉強会)の案内や記録のほか、大阪湾を中心とする海の生き物について書きます。

ガザミフジツボ

 博物館のミニガイドによると、大阪湾には14種のフジツボ類が生息します。その後、本研究会の定点調査でヨツカドヒラフジツボ、タロクヒラフジツボ、フルイヒラフジツボ、ドングリカイメンフジツボが追加され、外来種のココポーマアカフジツボとキタアメリフジツボも報告されたので、計20種となりました。今回、新たにもう1種のフジツボが見つかったので報告します。
 フジツボは、地元の魚を扱っている鮮魚店から昨日購入したガザミ3個体の甲上に、1個体ずつ付着していました。ガザミはいずれもメスで、長期間脱皮していないため、甲表面が黒っぽく変色していました(このようなカニがおいしいです)。フジツボの殻幅は1cm足らずと小さく、白色でした。最初は種名がわからなかったのですが、ネットでいろいろ調べたところ、ガザミフジツボChelonibia patulaであることがわかりました。私は長年、大阪湾のガザミを調べてきたのですが、このようなフジツボは初めて見ました(オノガタウスエボシOctolasmis warwickiiは稀に甲に付着していました)。今回、ガザミ3個体すべてに付着していたので、最近増えているのかもしれません。
 上にガザミフジツボと書きましたが、Cheang et al. (2013) の研究で、実はこの種のミトコンドリアDNAはカメフジツボChelonibia testudinariaのそれと差がないことが明らかにされました(形態は大きく違います)。カメフジツボはウミガメの甲につく大型のフジツボで、大阪湾の定置網に入って死亡したアカウミガメにも付いていました。もし本当に同種であれば(WoRMSでは既にシノニムになっています)、付着する対象によって形態が変化することになります。ガザミはウミガメと違って脱皮するので、フジツボは長期間付着し続けることはできません。ガザミの大型メスは秋の交尾期には脱皮するので、フジツボが暮らせるのもそれまでです。キプリス幼生は本来、ウミガメに付くはずなのですが、ウミガメが見つからなかった場合、仕方なしにガザミに付着するのでしょうか。(有山)
[文献]
Cheang CC, Tsang LM, Chu KH, Cheng I-J, Chan BKK (2013) Host-specific phenotypic plasticity of the turtle barnacle Chelonibia testudinaria: a widespread generalist rather than a specialist. PLoS ONE 8(3), e57592. doi:10.1371/journal.pone.0057592
近江智行,関根 寛,大谷道夫(2016)大阪湾でみつかったキタアメリフジツボ.大阪湾海岸生物研究会2016年研究発表会(口頭発表).
大阪市立自然史博物館(1991)大阪湾のフジツボ−全14種の解説と見分け方−.38 pp.
山口寿之(2014)外来種ココポーマアカフジツボの国内分布.Sessile Organisms, 31, 15-23.
[関連ウェブサイト]
大阪湾海岸生物研究会定点調査データベース:http://www.mus-nh.city.osaka.jp/iso/okk/teiten_db/index.cgi
鳥羽水族館飼育日記:http://diary.aquarium.co.jp/archives/19656
Turtle Rider - Ryota Hayashi on Web –:https://sites.google.com/site/coronuloidea/commentaries/cheang-et-al-2013
WoRMS:http://www.marinespecies.org/aphia.php?p=taxdetails&id=106234

写真は加熱後のものを撮影しました。本種は甲の左前方に付着、中央部のは普通種のサンカクフジツボです。


[2016_09_01追記]
ガザミフジツボ=カメフジツボは、その後大西洋産マナティ体上のChelonibia manatiとも同一種であるとされました(Zardus et al., 2014)。これもミトコンドリアDNAを調べたものですが、それだけで同種とするのは問題があるため、核のマイクロサテライトDNAの検討が開始されており(Ewers-Saucedo et al., 2016)、その内、結論が出るものと思います。
Ewers-Saucedo C, Zardus JD, Wares JP. 2016. Microsatellite loci discovery from next-generation sequencing data and loci characterization in the epizoic barnacle Chelonibia testudinaria (Linnaeus, 1758). PeerJ 4:e2019; DOI 10.7717/peerj.2019
Zardus JD, Lake DT, Frick MG, Rawson PD. 2014. Deconstructing an assemblage of "turtle" barnacles: species assignments and fickle fidelity in Chelonibia. Marine Biology 161:45–59. http://sites.clas.ufl.edu/accstr/files/accstr-resources/publications/Zardus_etal_2014.pdf