大阪湾海岸生物研究会のブログ

大阪湾海岸生物研究会の活動(定点調査や勉強会)の案内や記録のほか、大阪湾を中心とする海の生き物について書きます。

城ケ崎のコケムシ

コブヒラコケムシ  Schizoporella japonica

 黄白色の色彩のコケムシで、腹壁には全体にわたって偽孔と呼ばれる孔状組織が分布しています。また、虫室口の下縁にはU字型の湾入があって、多くの場合、その片側または両側に鳥頭体があります(図1、図2)。この種は長い間Schizoporella unicornisという種名で知られて来ましたが、Dick et al. (2005) によって日本の標本は明らかにその種とは異なることが明らかにされ、新たにS. japonica命名されました。しかし、城ケ崎の標本がS. unicornisである可能性はないのでしょうか。そこでもう少し詳しく調べてみました。城ケ崎の標本では、例えば虫室口下縁にある湾入の幅(図2- a)は100μmと広いこと(S. unicornisは80μm:Ryland et al. 2014)や卵室全面に孔があること(図3)(S. unicornisにはないか、あっても縁辺部のみ:Tompsett et al. 2009)などの特徴があります。これらの特徴はS. unicornisのものではなく、城ケ崎の標本はS. japonicaであることを示しています。

本種の分布域は中国沿岸から日本全土とされていて(Dick et al. 2005)、大西洋東岸に分布する(Tompsett et al. 2009)S. unicornisとは分布域も異なっています。特筆すべきは、S. japonicaは近年北米西岸やイギリスなどにも分布することが知られ、そこでは外来種と考えられていることです(Dick et al. 2005、Ryland et al. 2014)。どうやって極東からそれらの地へ侵入したかですが、北米西岸へは日本から養殖のために持ち込んだマガキとともに、イギリスへは船舶に付着して侵入したと考えられています。

 文献:

Dick, MH, Grischenko, AV and SF Mawatari (2005) Intertidal Bryozoa (Cheilostomata) of Ketchikan, Alaska. Journal of Natural History, 39(43): 3687–3784.

Ryland, JS, Holt, R, Loxton, J, Jone, MES and JS, Porter (2014) First occurrence of the non-native bryozoan Schizoporella japonica Ortmann (1890) in Western Europe.  Zootaxa 3780 (3): 481–502.

Tompsett, S, Portera, JS and PD, Taylor (2009) Taxonomy of the fouling cheilostome bryozoans Schizoporella unicornis (Johnston) and Schizoporella errata (Waters). Journal of Natural History, 43 (35–36): 2227–2243.                  (大谷)

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図1 個虫群

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図2 個虫の拡大

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図3 卵室の拡大