大阪湾海岸生物研究会のブログ

大阪湾海岸生物研究会の活動(定点調査や勉強会)の案内や記録のほか、大阪湾を中心とする海の生き物について書きます。

矢倉海岸の小型甲殻類

昨日は思ったよりも潮が引いて、よかったですね。私が採集した小型甲殻類を報告します。ヨコエビ3種、等脚類1種です。

1. ニホンドロソコエビGrandidierella japonica

 泥干潟にきわめて普通のヨコエビです。ドロソコエビ属は他のヨコエビ類と異なり、オスの第1咬脚が特に大きくなるのが特徴です。泥中に巣穴を作って生息しています。昨日は小型個体ばかりでしたが、1㎝位になるのもいます。この場所には他にオオサカドロソコエビG. osakaensisも生息しているはずですが(タイプ産地が淀川河口です)、残念ながら採集できませんでした。もう少し引けば見つかったものと思います。この種については下記をご覧ください。

https://osakawan.hatenablog.com/entry/2019/04/25/140500

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ニホンドロソコエビ♂

2. シミズメリタヨコエビMelita shimizui

 汽水域の転石下にいるヨコエビです。大阪湾の河口には今回のような白っぽい大型のもの(オスの最大体長約7mm)と青緑がかった小型のものがいますが、種内変異なのか別種なのかわかりません。形態的には第2咬脚の掌縁が斜めで目の小さいことが特徴です。

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シミズメリタヨコエビ

3. ヒゲツノメリタヨコエビMelita setiflagella

 この種も汽水域の転石下に生息します。色は褐色でまだら模様があります。前種より少し大型です。形態的特徴としては、オス第2咬脚の掌縁がほぼ縦で、第2触角鞭状部に毛が密生することが挙げられます。

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ヒゲツノメリタヨコエビ

4. イソコツブムシ属の1種Gnorimosphaeroma sp. 

 現地ではハバヒロコツブムシChitonosphaera lataかなと思ったのですが、顕微鏡で見ると、すべて本種の幼体でした。本邦産イソコツブシ属については1998年に12種が報告されていますが(Nunomura, 1998;その後さらに増加)、同定はかなり難しいです。(有山)

[文献]Nunomura, N. (1998)  On the genus Gnorimosphaeroma (Crustacea, Isopoda, Sphaeromatidae) in Japan with descriptions of six new species. Bulletin of the Toyama Science Museum, 21, 23-54. 

https://isopods.nhm.org/pdfs/4854/4854.pdf

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イソコツブムシ属の1種

矢倉のベントス調査会(10月4日)

今年は定点調査の回数が少なく、また合宿も中止になってしまいましたので、研究会としても活動量が落ちています。そこで、秋のイベントとして矢倉干潟(西淀川区)でのベントス調査会を企画しました。実は矢倉干潟では2019年以降、大阪湾生き物一斉調査の調査ができていません。矢倉は西淀自然文化協会の皆さんによって開始年度からずっと調査が続いていたサイトですので、できれば補完しておきたいと考え、研究会でデータを取ることにしました。関心のある方はぜひご参加ください。

 実施日:10月4日(日)
 場所:矢倉干潟(大阪市西淀川区神崎川河口左岸)
 集合:阪神なんば線「福」駅西口に午前11時。矢倉干潟まで徒歩50分程度です。
 干潮:13時55分, 76cm(大阪港)
 解散:午後3時〜4時頃、現地で。
 持ち物:観察・採集用具(ルーペ、野帳など)、弁当、軍手、タオル、マスク。
 申込み:事前の申込みは不要です。
 参加対象:本会会員と同伴者
 その他:・潮位が高めですが、調査地はぎりぎり干出すると思います。お持ちの方は胴長をおすすめします。
     ・小雨決行・荒天中止とします。当日はっきりしないときは、午前9時以降に本会のブログで確認してください。
      https://osakawan.hatenablog.com
     ・当日は大阪市立自然史博物館友の会の秋祭りイベントの下見グループと合流しますのでご了承ください。

 感染症防止に関するお願い:
 ○当日または過去2週間以内に発熱、風邪のような症状、味覚・嗅覚異常のある方は参加をご遠慮ください。
 ○往復の移動時には、各自で必要な感染防止対策を取ってください(マスク着用など)。
 ○現地ではソーシャルディスタンスの確保などに努めてください。お互いに近づく必要のある時はマスクの着用もお願いします。
 ○感染拡大などの状況により、政府や自治体から移動やイベント自粛の要請が出された場合は中止とします。中止の場合はメーリングリストとブログで告知します。

ガザミ類の殻

コロナや猛暑で大変なことになっていますが、お変わりございませんでしょうか。

私は週に数回、泉南さとうみ公園でウォーキングしているのですが、今日、波打ち際でガザミ類稚ガニの脱皮殻を拾いましたので、報告します。計16個で、いずれも淡輪側(ときめきビーチ)でした。種類を調べたところ、ガザミ Portunus trituberculatus が8個(甲幅24~37mm、写真1)、ジャノメガザミ P. sanguinolentus が7個(甲幅26~36mm、写真2)、タイワンガザミ P. pelagicus が1個(甲幅32mm、写真3)でした。なお、種の同定は有山(2001)を参考にしましたが、ジャノメはすべて甲に斑紋があり容易でした。ガザミとタイワンは鉗脚長節前縁の棘が4本か3本かで識別できますが、これ位のサイズの稚ガニでは、鉗の不動指がガザミでは白色であるのに対し、タイワンは赤色であることでも区別できます。

熱中症に気を付ける必要はありますが、こんなビーチコーミングもいかがでしょうか。(有山)

[文献]

有山啓之(2001)大阪湾におけるタイワンガザミの生態について.大阪水試研報,13,19-22.http://www.kannousuiken-osaka.or.jp/_files/00056113/13-3.pdf

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写真1.ガザミ(甲幅37mm)

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写真2.ジャノメガザミ(甲幅36mm)

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写真3.タイワンガザミ(甲幅32mm)

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ガザミ類3種の稚ガニにおける甲および鉗脚長節の形態の比較(上段:ジャノメガザミ、中段:ガザミ、下段:タイワンガザミ)[有山(2001)より]

 

 

豊国崎のウミシダ:マキエダコアシウミシダ

豊国崎の定点調査で見つかったウミシダの不明種について、小郷一三先生に同定して頂きました。マキエダコアシウミシダ Comanthus wahlbergii (Müller, 1843) とのことでした。日本近海での記録は相模湾佐渡島を北限とする南方系の種で、大阪湾では初記録となります。

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マキエダコアシウミシダ(反口側)

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マキエダコアシウミシダ(口盤側)

 

(石田)

豊国崎で見つかったウミウシ

ヒメチシオウミウシ Thordisa sanguinea Baba, 1955

 

大きくなっても10mm程度の小型種です.背面の正中線上に暗褐色の眼紋が数個あり,そこから細長い突起が伸長します.白い矢印で示している部分に少しわかりにくいですが眼紋が確認できます(写真1).

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写真1. ヒメチシオウミウシ

本種は歯舌に特徴があり,鎌状をした側歯は内側にいくほどサイズが小さくなります(写真2).また,外側の側歯は先端部が櫛歯状に分岐します(写真3).

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写真2. 内側歯

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写真3. 外側歯

見た目の似るヤマトウミウシは全ての歯が鎌状をしており,外側の側歯は櫛歯状になりません.

大阪湾では初記録になります.

(柏尾)
 

豊国崎でみつかったカイメンとヒモムシの紹介

豊国崎で2020年6月21日に見つかったカイメンとヒモムシについて紹介します。

海綿動物

石灰海綿綱

タテジマカイメン Heteropia striata

加戸さんが見つけてくれました。白っぽい色彩のカイメンで、いくつもの管が立ち上がりますが、それぞれの管の下端で互いに癒着して基物に付着しています。表層には縦に走る太い桿状体があって、縦縞模様に見えます。表層からは細い毛状のまっすぐな桿状体が飛び出していて、けば立った感じになります(右写真でかすかに見えます)。
骨片は長い柄の矢状三幅体と大小の桿状体からなります。

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全体像(左)と表面の拡大写真(右)(縦に走る桿状体が見える)
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桿状体(左)と矢状三幅体(右)

普通海綿綱

Haliclona takaharui (和名なし)
加戸さんが見つけてくれました。濃い紫色をした柔らかなカワナシカイメン属のカイメンです。表面には出水孔がランダムに配置しています。骨片で作られる骨格構造は、不明瞭ながら基層から表層に走る一次繊維があり、その一次繊維同士はランダムに配列した骨片で結ばれています。
骨片の種類は大小二種類の桿状体です。大きい方は130μmくらいの長さがあり、小さい方は110㎛くらいの長さがあります。

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全体像(左)と骨格構造(右)(縦に走る一次繊維が見える)
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大小二種類の桿状体(左写真が大桿状体、右写真中の細いのが小桿状体)

紐型動物
Evelineus mcintoshii(和名なし)
鮮やかな赤い筋が頭部から尾部まで背面の中央を走り、赤い筋の下に黒い横縞がほぼ定期的に配列するとてもきれいで特徴的な模様のヒモムシです。この色彩の他に頭部には朱色の横長の三角状の斑紋があり、その前に接して黒い斑紋があります。写真ではわかりませんが頭の両側縁には頭横溝という溝があって、二つ目の黒い横線のあたりまで走っています。このヒモムシははるか昔、1890年代に神奈川県の三崎から発見されましたが(高倉 1898)、その後国内での記録はほとんどありません。ただ、近年は世界各地で発見が相次いでいるようで、分布が汎世界的であることや発見場所が港の近くであることなどから外来種ではないかと考えている研究者もいます(例えばAlves et al. 2019)。大阪湾では海岸生物研究会のこれまでの長い活動の中でも発見されず、今回初めて発見されたことは貴重な記録といえるかもしれませんが、海外で言われているように近年分布するようになった可能性もあり、外来種も視野に入れながら今後の動向に注意する必要がありそうです。

参考文献

Alves R.V.A., Mendes C.B., Craveiro N. & Rosa Filho J.S. (2019) First record of the marine     nemertean Evelineus mcintoshii (Langerhans, 1880) (Heteronemertea, Lineidae) in     Northeastern Brazil. Pesquisa e Ensino em Ciências Exatas e da Natureza, 3(2): 147–153.

高倉卯三麿 (1898) 三崎近傍産紐虫(Nemertine)の分類.動物学雑誌,10: 184-187.

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全体像(左)と頭部(右)

 (大谷)